実話『ベリーショートの髪の女』
心の雨戸を半分閉ざしている男
男は薄暗い中を寝そべって、手探りでタバコを灰皿の上に置いた。
寝タバコが、やめられない。 咳も少しも、とまらない。
隣の部屋には娘が寝ている。ひとり娘だが、とうに婚期は、すぎている。
雨戸が半分だけ閉めてあるが、キンモクセイの香りは、この男の部屋にもはいってくる。
男は定年まで、木工所で勤め上げたが、今は、縦のものを横に動かすのも、おっくうなのである。
娘は昼から寝ていて、週に3回透析を受けている。若い頃のシンナー遊びと男遍歴の為と噂されているが・・
妻も母も男が退職し家にいるようになると次々に、他界し、病弱な娘だけが残った。
この男、中学までは、校内1位の成績で生徒会長までやった活動的な男だったが、どこでどうなったのか
今では心にも半分雨戸を閉ざしているようだ。
キンモクセイの花がこの男とは無関係に光まばゆく咲いていた。知多半島の先端のこの男のすぐそばで。
(画像はデジカメで撮ったもの。)
あの変な奴は誰だろう・・・
女 『道の途中で気味の悪い人に逢ったわ。』
男 『どんなやつ?』
女 『髪が長くて、ごく短いショートパンツをはいて、サングラスをかけているの。』
男 『そんなやつ、いっぱい、いるじゃないか。』
女 『それが、どうも、男らしいのよ。』
男 『そりゃ、そうだろうさ。』
女 『みたの?』
男 『安アパートに住んでいるけど、変なやつじゃない!』
女 『つけたの?』
男 『・・・』
女 『一寸気味の悪い人なのよ。』
男 『胸をはって、あそこまで堂々としているから、話せば知的な奴さ。』
女 『知的ですって?』
男 『たぶん、漫画家だろう。』
町の再開発で、そのアパートも今はこわされ、麗人街?も、消えた。あの、変な奴と、共に・・。
(画像は、関係ありません。漫画が、描けるといいのですが・・)
ノンフィクション『ある高校生の会話』
『おれ、就職、決めたよ。』
『進学しないのか?』
『うん、残された短い日数の中、冷静に考えたらオレには勉強は向いてない。あまり、やる気もないし・・・』
『で?』
『特別養護老人ホームに就職することにしたよ。』
『ジミだな』
『オレは老人の無表情な顔を頭に浮かべてきめたんだよ。』
『おまえが、その表情を変えれるか?』
『オレは就職しながら、調理師の免許をとるんだ。うまい料理を作って、老人を心の底から笑わせる。』
『マジか?調理だって勉強は、いるんだぜ。』
『でも、感性の世界がほとんどだ。オレでもできそうなんだ。』
高校生はだぶだぶのズボンを腰の低目にはき、鋭い目をして、にやりと笑った。
満足そうだった。
(通勤電車の中、本を読んでいて、たまたま、前にいた高校生の会話が聞こえてきた・・)